【お父ちゃんＣｏｍｅＢａｃｋ！！ 第４話】
−第４話−
ごん！
鈍い音が耳元でして、真人は目を覚ました。
「･･････」
一瞬何が起こったのかわからない。うしろ頭が痛んだ。
「･･･そうか」
夢だったのか、と真人はようやく気がついた。ヨコハマへ向かう電車の中で、どうやら少々の間居眠りをしていたらしく、見事に後ろの窓にアタマをぶっけたのだ。
今日も例のごとく父を探して歩き回っていた所に、一週間前公園で出会った神原とかいう男から連絡が入ったのは夕方近くだった。
何故彼が真人のケータイ番号を知っていたのか―
いやそれより、今はランドマークタワーに向かわなければならない。神原は真人をランドマークタワーへと呼び出したのだ。
『話したい事がある』
神原の残した台詞が頭の中に浮かぶ。
一体何だろう？
そう言えば、俺のケータイは父さんから貰ったんだっけな、と真人は思い出した。
―だとしたら父さんは俺にこのケータイを譲る前に番号を神原に教えていた？
でもそれならあいつと父さんは知り合いってことになる･･･
考えているウチに、窓に外の風景はヨコハマへと変わっていた。とっくに夜７時をまわっていた。夜景が目に眩しい。
ベイ・ブリッジの下を泳ぐなんて冗談じゃないな、と真人は思う。
我ながら妙な夢だ。どんぐり山にエスキモーがいるなんざ、幼い頃の某嬢の妄想に決まっている。その後生協に豆腐を買いに行くのがオチなのだ。
八丁味噌も買って来いとか言われるかもしれない。
電車は横浜駅のホームに着いた。やはりこの時間はまだ人が多い。
実は真人はこの駅が苦手だったりする。西口とか東口とかわけわからんし、そごう、高島屋につながってるし、相鉄ムービル行くときも迷ったし･･･
しかしここでじっとしていても仕方無いのでとりあえずランドマークタワーの見える方へ行くことにする。
輝く月で、うさぎさんがモチつきをしていた。
神原はひとりで溜め息をついていた。
ランドマークタワー下である。真人はまだ来ない。
いや、本当に真人が来るかどうかは甚だ疑問ではあるが。
しかし真人は「必ず行きます」と言っていたではないか。
ふと時計を見ると、８時を過ぎていた。人通りはまだ多い。神原の前を皆通り過ぎていく。
家路を急いでいるのだろうか。
桜木が北海道に行ったことはわかっていた。昨日突然本人から連絡があったのだ。これは流石に驚いた。
―お前一体何してる？
神原の問いに、桜木は言った。
『世界の平和を守るためにな･･･果ては宇宙まで行きたいが･･･小さい事から始めようと思ってさ･･･、ま、とりあえず家庭の平和からね。』
そこまで桜木は言って、電話は切れた。
アホが。十円玉でかけてきやがったな。神原はそう呟くしかなかった。
しかし家庭の平和など言ったら奴は奥さんにアイソつかされて夫婦別居をしていたはずだ。平和も何もあったもんじゃない。
―何考えてんだ・・・。
神原はこめかみをおさえた。
「ふう･･･」
溜め息をひとつ。
ふと、背中に妙な感触が走った。
「えっ･･･」
「動くと撃つ。」
耳元で声がした。
「何時の間に！？つーかお前誰だ！！？」
「ひみつだ。それよか一緒に来てもらおうか。」
神原は舌打ちした。人通りもまだ多い。妙な騒ぎは起こさない方が賢明だ。手も足も出ない。（首なら出るかもしれないが。）
―真人くん･･･
神原は言われるまま連れて行かれるしかなかった。
月ではまだうさぎさんがモチをついていたという。
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