【お父ちゃんＣｏｍｅＢａｃｋ！！ 第６話】
−第６話−
どれくらい経ったろうか。
目の前が真っ暗である。
ここが何処なのか、そんなことさえわからない。
ふと、会う予定だった―――――少なくとも会えると信じていた―――――少年のことが思い出される。
―――――彼はどうしたろうか？
ここに連れて来られてから幾度目かの、ごく簡単問いを、神原はもう一度繰り返す。
もちろん答えてくれる者など誰も居もしないのだが。
ランドマークタワーに彼―――――桜木真人が来たとしても、数時間前に自分は謎の男に連れ去られてしまったのだ。約束は・・・パァである。
真人の携帯に連絡を入れることすら許さないこの状況を、神原は改めて恨んだ。
神原をここへ連れて来た男は、ありきたりながら神原の手足を縄でぶん縛り、さるぐつわをかませて挙句、ご丁寧にもアイマスクと耳センまで用意してくれた。
今神原が閉じ込められている部屋には、神原の他には誰も居ないようだった。
ただ、ドア一枚隔てた隣りの部屋から、神原を連れ去った男もものらしい声と、もう一人別の男の声が聞こえてくる。
どうやら、男達が神原のために用意した耳センはあまり役に立っていないようである。
―――――肝心なとこでヌけてやがんな、あいつら・・・
指差して笑ってやりたい気分になったが、聞こえてくる奴らの会話というのが神原にとってさして重要でないものばかりだと気付いてみると、神原のココロはバイカルよりもさらに深く沈むのであった。
こういうところに都合よくナイフか何か落ちていたら―――――・・・などと考えもしたが、そんな事実は無く、また有ったとしても、アイマスクを着けられたこの状態でそれを駆使して縄を解くのは、大分骨であろう。
時間だけが、ただ流れていく。
おそらくまた、数時間が過ぎたのだろう、神原は自由を奪われたえらく不自然な姿勢のまま、それでも少々うとうととし始めていた。
いつ逃げ出す機会が訪れるとも限らないので、初めは必死に眠るまいとしていたのだが、もうそろそろ限界であった。
神原が諦めて睡魔に身をまかせようとした時、隣りの―――――そう、男達の居た―――――部屋から物音が―――――まるでバーか喫茶店のドアを開けるような―――――そんな音が聞こえた。
どうやら、隣りの部屋から外へ出られるようになっているらしい。
しかし、神原はここが、以前神原自身が入り浸っていた“ＢＡＲ・オルレアン”であることには気付かない。
続いて神原を連れ去った男の声。
「夜食買って来たぜー、あ、豆腐プリン食う？」
「プッチ○プリン無いの？俺はでっかいやつが好きなんだ。」
何やらガサガサとやっている。
―――――なんだ、コンビニ行ってたのか･･･。
逃げ出す機会がやってきたのかと期待したことに、神原は自分でも空しくなる。
神原はがっくりと首を垂れた。
ＰｉＰｉＰｉＰｉＰｉ・・・・・・
と、こんどは電子音が神原の耳元に届いた。
それが携帯の着信音であると神原が理解するより早く、男の一人―――――神原を連れ去った方―――――が電話に出る。
「モスモスよしこはん？・・・なんだ、遅かったな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナニ、キタ○タだって？おみゃーさん夢でもみたんちゃうか、ていうかコスプレかそれは。アホ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ―――――――――ハイハイ、で、どうした？・・・・・・桜木のせがれだよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そーかー。ったく仕方がなかね――――おみゃーさんは――――。」
電話の相手はえらい言われ様である。
しかし、その会話の中に、『桜木のせがれ』という言葉が含まれていたことを、神原の耳は聞き逃さなかった。
「とりあえず戻って来い。神原の奴は―――――ああ、監禁してある。・・・・・・うん、じゃーな。」
その台詞を最後に、男は電話を切った。
―――――うたたね（ｎｏｔひろゆき）してる場合じゃないな・・・。
連中は真人にまで接触―――――恐らく神原にしたのと同じように、拉致しようとしていたのだ。
だが、電話の相手の言われ様から察するに、連中は真人を捕まえそこねたのだろう。
こうなっては、一刻も早く真人と連絡をとらねば。
―――――どうするか・・・
伊月が助けに来ててくれたら、と神原は思った。
ここ１週間姿を見せない上、連絡も繋がらない。どうしたというのか。
ふぅ・・・。
溜め息をアタマの中でついて、神原が眼を閉じた時、隣りの部屋から再び、あの、ドアを開ける音がした。
また連中の仲間でも入ってきたのかと半ば諦めた表情で、それでも神原はとりあえず耳をすましてみる。
「すいませ―――――――――ぇん」
どこか場にそぐわない、あまりに呑気な、しかし神原の知っている――――――声。
―――――真人くんか！
どごげしっ。
手足を拘束されたまま、無理に身を乗り出し、神原は顔面から床に突っ込んだ。
―――――痛い。
目に涙さえ浮かべ、痛みをこらえる神原だが、しかし次の瞬間、神原の閉じ込められている部屋の戸が音をたてて勢い良く開いた！
同時に、神原を拉致した男と―――――後ろから、真人がなだれ込んで来た。
「おっと」
男は素早く神原の後ろに回りこむと、何か固いもの―――――鉄製のようだ―――――を神原の背中へくいこませる。
「動くなよ、桜木真人くん。」
―――――またこのパターンかっっ！？
ツッコみたくなる神原だが、彼の自由を奪っていたアイマスク、さるぐつわ、そして役に立たない耳センは男によって外された。
「・・・？」
意外な展開に、一瞬思考が停止する神原に、すかさず声を発したのは真人であった。
「神原さん！」
「真人くん！来てくれたのか！」
「話しって何ですか！？」
どごべしっ。
真人の唐突な、それでいて核心を突いた質問（ボケともいう）に、神原は銃を突きつけられたままバランスを崩す。
「真人くん、あのね・・・」
講義しかけた神原を背後から、いい加減にしろ、とばかりに男が制する。
「ちょい待ち、兄さん方。今どーいう状況かわかってんの？」
ふと気付くと、真人のすぐ後ろにも男―――――プッ○ンプリンがどうの、とか言っていた奴である―――――が立っていて、真人のちょうどの頭に向けて、自分の“獲物”を構えている。
「さぁ―――――て（来襲のサザ○さんは？）状況が把握できたところで・・・・・・」
神原は息をのんだ。
男がなにをするつもりなのか、さっぱりわからない。
（どうする？真人くん･･･）
ただ黙っている真人に、神原が視線を投げかけた時、男は次の言葉を、その口から滑り出させた。
「５万円、返してもらおうか。」
それは、新たなる事実であった―――――。
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